世界最速ビジネスモデル 中国スタートアップ図鑑
(井上 達彦, 鄭 雅方 著 / 日経BP)
世界最速の立ち上がり、美しさ際立つ中国版ビジネスモデルのケーススタディ!
本書は<中国の経済事情カテゴリ>ベストセラーになっており、著名な大規模書店では平積みでお勧め図書になっています。なぜ売れているか、その理由を整理してみます。
・ ビジネスモデルのケーススタディに中国企業を取り上げている。日本とは異なり、
事業の桁(規模)がとても大きく、現在のビジネスモデルの世界最先端は、
欧米ではなく、日本でもなく、中国だと言うこと。ここから日本的発想とは
異なる新たなイノベーションが広がる可能性を感じられる。
(横展開型、融業型ビジネスの次なるステップへ?)
・ 本書のデータは、筆者や著者と関わる学生の綿密なフィールド調査に基づくもので、
分析内容にリアル感・臨場感がある。大学の情報源の広さ、奥深さを再認識できる。
・ そして最大の特徴、「システムシンキング」と「ピクト図」をビジネスモデルの
フェーズに応じて使い分け、言葉では表現しにくいところを知覚的に示し、
更なる納得感を高めている。図を見ると言いたいことが良く頭に入ってくる。
・ これは蛇足ですが、適宜挿入されているイラストが専門書的な堅さを取り除き、
読みやすい気持ち作りから読者を引き込む(書籍を売る戦略が潜んでいる?)。
他のレビューにもありますが、日本の書籍で中国企業をここまで内面から切り込んで分析、分かりやすくまとめている書籍は無かったように思います。その分析は非常に緻密、かつ斬新な視点が織り込まれていることは素晴らしいと思います。
本書を読んでいて思い出したのですが、2005年にエコシステムに関わる輪講をゼミで企画した際、マイケル・クスマノ著「プラットフォーム・リーダーシップ」でインテルの事例を題材にしました。当時のインテルは、IBMの時代から続いたバス・アーキテクチャの刷新に着手(ここで儲ける気はなかった),PCの拡販を目指した事業戦略を立案し、PCIバス・アーキテクチャのデファクト化を果たし、AGP や USB 規格開発に繋げました。一企業の独占的利己を排他した「公共の利益」を追求し,当時のビジネスの成功はそこから導かれたと結論付けていましたが、これが今の中国企業のビジネスモデルに置き変わっているような印象です。
企業価値を高める展開は4つのパターンに分類され、その中から「横展開」と「融行」に成長を期待させる特徴を見いだし、個々のケースに応じて図式化した説明は本書の優れた特徴です。その背景に「模倣」が鎮座していることも興味深いところです。
p.196~197、p.199 TikTok の海外展開までの成長エンジンを「横展開」とし、これを時系列にピクト図の変化とシステムシンキングから表現している図式化はとても分かりやすいです。事業分析に関わる実務にも使わせていただきたいと思います。
p.224~225、p.227 メイトゥアンのクロスセリングの成長エンジンを「融業」として、同様に図式化しており、「横展開」と対比しつつ眺めてみると、本当に分かりやすいです!
話しは変わりますが、今回取り上げられたビジネスモデルのケーススタディ全てにインフラとしてのネットが絡んでいることを複雑な心境で読み進めました。ネット社会を基盤に置いたビジネスの主体は有形から無形へ、モノからことへ、サービスへの特化は付加価値の向上へと、ビジネスで取り組むべきポイントがパラダイムシフトしていることは明らかでしょう! それを自身に重ねてみると、もはや時代遅れの中に取り残されているような恐怖感さえ覚えてしまう、この先の自分はどうあるべきか、何を目指すべきかを真剣に考える良い機会を頂けたように思っています(汗)。
2021年06月21日 19:25
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