Edgar H. Schein ~組織心理学の父が語る自叙伝~

最近まで読んでいた Edgar H. Schein の自伝
「マイ・ラーニング・ジャーニー ズ」 ~組織心理学の父が語る自叙伝~
エドガー・H・シャインが提唱した組織心理学ですが、元々彼は実験社会学心理学者であり、その道の専門家ではなかったと述べています。ダグラス・マクレガーのオファーによってMITに職を得たことで進路変更したシャインは、アカデミアと実学とのマージからあの有名な『キャリア・アンカー』を提唱していますが、この背景も興味深く、当初の研究の狙いとは逆の結果から導かれています。
ウォルター・リード陸軍研究所では、朝鮮戦争後の捕虜交換に際しての「洗脳」の研究に携わり、企業における研修と同じ効果であると考えたシャインは「教化」や「社会化」という概念に理論を広げていきました。ただ、調査結果はシャインが考えた通りにはならず、調査対象者の就職後の態度には変容が無い人が多く、個人のキャリアの軸は固定されている場合が多いとの結論から、『キャリア・アンカー』の発見に繋がります。おおよそのことは多くの書籍に述べられていましたが、ここまで詳細な記述は無かったように思うので、これを知るだけでも本書の価値があると思います。
この研究過程では、「心理的契約(Psychological Contract)」も見えてきた概念のひとつだったとあります。組織が所属する社員に対しての暗黙の期待は、組織と個人(そこで働く社員)の相互作用として繋がりであり、組織心理学はこの視点をメインのテーマに据えたわけです。
キャリア・アンカーは個人を総合的に見るモデルや類型を提案をなし、
組織文化は組織を総合的に見る手段を提供した。
シャインの『キャリア・アンカー』は8つあります。
1. 専門・職能別コアコンピタンス(Technical / Functional Competence)
自分の専門分野をとことん追求するタイプで、
管理職になる事には価値を置かない考え方。
2. 全般管理コアコンピタンス(General Manager Competence)
管理職を強く希望する人、組織の階段を上り、
責任ある地位に就きたいという強い出世願望を抱くタイプ。
3. 自立・独立(Autonomy / Independence)
規範に束縛される事に我慢できない、自分のやり方、
自分のペース、自分の納得する仕事の標準を優先します。
4. 保障・安定(Security / Stability)
安全の保障という課題がキャリア全体を通して支配的であり、
公的機関(公務員)に魅力を感じます。
上級職や要職に就かなくても組織との一体感を持つ事で満足できます。
5. 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
人生の早い時期からがむしゃらに夢を追いかけ、
新しく事業を起こすことを試してみたい、熱い思いに取り付かれています。
6. 奉仕・社会貢献(Service / Dedication to a Cause)
自分の価値観を核に据えた奉仕を前提とする仕事をしたい、
何らかの形で世の中をもっと良くしたいと言う欲求が強く、
自己犠牲を受け入れるタイプです。
7. 純粋な挑戦(Pure Challenge)
不可能と思えるような障害を克服する事が『成功』であり、
戦いや競争で勝つ事が全てと言う考え方です。
リスクに対しての耐性が強いことも特徴的です。
8. 生活様式(Lifestyle)
キャリアというのがそれほど重要ではなく、
生活様式全体を調和させ、条件つきで組織のために働きます。
自分の時間の都合に合わせた働き方を優先します。
調査の結果、最も多かったアンカーは 1.専門・職能別コアコンピタンス、ただ本書で注目すべきは 全般管理コアコンピタンス の考え方の具体的な例示です。
いわゆる『プロ経営者』とはどういった人であるか?
定義は以下を備える人とされていますが、具体的にイメージしにくいですよね?
(1) 分析的コンピタンス(頭脳の明晰さに繋がる素地)
(2) 対人関係およびグループ間を繋ぐコンピタンス(人格、器の大きさ)
(3) 情緒的コンピタンス(どんな逆境でも乗り越える強い精神力)
本書では、情緒的コンピタンスが必要となった決断に関する純粋な事例として、インタビューで以下の3つが明快だったと述べています。
(1) 50歳になる忠実な従業員で現在余剰になっている人を、
その年齢では簡単に仕事が見つからないことを分かった上で
特定して解雇すること。
(2) 2人の素晴らしい部下が持ってきた同じ程度に良い企画のどちらかについて、
一方を選ぶことで他方が辞める結果になるかもしれないことを分かった上で決めること。
(3) 自らの組織が最終的に責任を負っている多くの人々の人生に
影響を及ぼすことを分かった上で、数百万ドルの意思決定をすること。
シャインが長きに渡るMITでのエグゼクティブ教育に関わった結果、得られた見解として、米国では上記のような決断ができる人が真の経営者(胃が痛むような判断ができる人)だったようです。ただこれは情緒的な部分に限った必要要件の一部でしかなく、CEOは3つのコンピタンスをすべて持っている必要があるそうです。非常に希少性の高い人と言えるので収入水準が高くなる。つまり高い給料はその人の持つ希少性を反映しているとあります。
なんと納得できる説明でしょうか!
日本人にこういったプロの経営者がほとんどいないことに、改めて腹落ち感がありました。キャリア研究をやっている方は、是非とも読むべき書籍だと思います。
「マイ・ラーニング・ジャーニー ズ」 ~組織心理学の父が語る自叙伝~
エドガー・H・シャインが提唱した組織心理学ですが、元々彼は実験社会学心理学者であり、その道の専門家ではなかったと述べています。ダグラス・マクレガーのオファーによってMITに職を得たことで進路変更したシャインは、アカデミアと実学とのマージからあの有名な『キャリア・アンカー』を提唱していますが、この背景も興味深く、当初の研究の狙いとは逆の結果から導かれています。
ウォルター・リード陸軍研究所では、朝鮮戦争後の捕虜交換に際しての「洗脳」の研究に携わり、企業における研修と同じ効果であると考えたシャインは「教化」や「社会化」という概念に理論を広げていきました。ただ、調査結果はシャインが考えた通りにはならず、調査対象者の就職後の態度には変容が無い人が多く、個人のキャリアの軸は固定されている場合が多いとの結論から、『キャリア・アンカー』の発見に繋がります。おおよそのことは多くの書籍に述べられていましたが、ここまで詳細な記述は無かったように思うので、これを知るだけでも本書の価値があると思います。
この研究過程では、「心理的契約(Psychological Contract)」も見えてきた概念のひとつだったとあります。組織が所属する社員に対しての暗黙の期待は、組織と個人(そこで働く社員)の相互作用として繋がりであり、組織心理学はこの視点をメインのテーマに据えたわけです。
キャリア・アンカーは個人を総合的に見るモデルや類型を提案をなし、
組織文化は組織を総合的に見る手段を提供した。
シャインの『キャリア・アンカー』は8つあります。
1. 専門・職能別コアコンピタンス(Technical / Functional Competence)
自分の専門分野をとことん追求するタイプで、
管理職になる事には価値を置かない考え方。
2. 全般管理コアコンピタンス(General Manager Competence)
管理職を強く希望する人、組織の階段を上り、
責任ある地位に就きたいという強い出世願望を抱くタイプ。
3. 自立・独立(Autonomy / Independence)
規範に束縛される事に我慢できない、自分のやり方、
自分のペース、自分の納得する仕事の標準を優先します。
4. 保障・安定(Security / Stability)
安全の保障という課題がキャリア全体を通して支配的であり、
公的機関(公務員)に魅力を感じます。
上級職や要職に就かなくても組織との一体感を持つ事で満足できます。
5. 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
人生の早い時期からがむしゃらに夢を追いかけ、
新しく事業を起こすことを試してみたい、熱い思いに取り付かれています。
6. 奉仕・社会貢献(Service / Dedication to a Cause)
自分の価値観を核に据えた奉仕を前提とする仕事をしたい、
何らかの形で世の中をもっと良くしたいと言う欲求が強く、
自己犠牲を受け入れるタイプです。
7. 純粋な挑戦(Pure Challenge)
不可能と思えるような障害を克服する事が『成功』であり、
戦いや競争で勝つ事が全てと言う考え方です。
リスクに対しての耐性が強いことも特徴的です。
8. 生活様式(Lifestyle)
キャリアというのがそれほど重要ではなく、
生活様式全体を調和させ、条件つきで組織のために働きます。
自分の時間の都合に合わせた働き方を優先します。
調査の結果、最も多かったアンカーは 1.専門・職能別コアコンピタンス、ただ本書で注目すべきは 全般管理コアコンピタンス の考え方の具体的な例示です。
いわゆる『プロ経営者』とはどういった人であるか?
定義は以下を備える人とされていますが、具体的にイメージしにくいですよね?
(1) 分析的コンピタンス(頭脳の明晰さに繋がる素地)
(2) 対人関係およびグループ間を繋ぐコンピタンス(人格、器の大きさ)
(3) 情緒的コンピタンス(どんな逆境でも乗り越える強い精神力)
本書では、情緒的コンピタンスが必要となった決断に関する純粋な事例として、インタビューで以下の3つが明快だったと述べています。
(1) 50歳になる忠実な従業員で現在余剰になっている人を、
その年齢では簡単に仕事が見つからないことを分かった上で
特定して解雇すること。
(2) 2人の素晴らしい部下が持ってきた同じ程度に良い企画のどちらかについて、
一方を選ぶことで他方が辞める結果になるかもしれないことを分かった上で決めること。
(3) 自らの組織が最終的に責任を負っている多くの人々の人生に
影響を及ぼすことを分かった上で、数百万ドルの意思決定をすること。
シャインが長きに渡るMITでのエグゼクティブ教育に関わった結果、得られた見解として、米国では上記のような決断ができる人が真の経営者(胃が痛むような判断ができる人)だったようです。ただこれは情緒的な部分に限った必要要件の一部でしかなく、CEOは3つのコンピタンスをすべて持っている必要があるそうです。非常に希少性の高い人と言えるので収入水準が高くなる。つまり高い給料はその人の持つ希少性を反映しているとあります。
なんと納得できる説明でしょうか!
日本人にこういったプロの経営者がほとんどいないことに、改めて腹落ち感がありました。キャリア研究をやっている方は、是非とも読むべき書籍だと思います。
2023年01月24日 14:11